コラム>杖道が地域活動に発展


更新:2017年12月

杖道が地域活動に発展          

  夢想館館長 横尾正和(全剣連 杖道六段 錬士)

 雑誌 月刊武道 2017年11 月号(随筆より)

 

 妻の知り合いの女性が杖道の昇段審査を控えていたある日、私達夫婦を武道場に誘ってくれた。その時、寸止めによる激しい形稽古を見た私は、突然、背筋がゾクゾクッとし、強い感動と興奮を覚えた。「自分がやりたかったことは、正にこのようなものではなかったか」と。しかし、その高まった気持ちは、直ぐに45歳という年齢から来る重圧に負け、萎えてしまった。

 

    ところが、その後、予期せぬことが起きた。何と前述の女性が、私の返事も聞かぬうちに名前入りの胴着、袴、木刀と杖一式を買い揃えてしまったのだ。不意に背中を押されたような状況に、とうとう習わざるを得ないことになってしまった。それから、駅から徒歩で30分近くもかかる小学校の体育館で師範との週1回のマンツーマンによる稽古が始まった。それは同時に、仕事帰り、居酒屋での酒、煙草、カラオケ中心の生活からの脱却でもあった。

 

    その後、徐々に稽古場所や日数も増え、自宅 と職場と道場をほぼ毎日巡回する生活に変わって行った。いつしか杖道の奥深い魅力に惹かれ、寝ても覚めても技ばかりが頭に浮かぶ日々が続いた。また、屋外で姿を映す場所を見つけては、一人稽古に励んだ。その甲斐あってようやく指導できる立場になれたが、自分の道場が持てる日が訪れるとは夢にも思わなかった。

 

    2009年に、先に退職して市民活動に参加してい た妻の誘いを受け、NPO法人「学びのサロン」を立ち上げ、現在に至っている。今振り返ると夫婦にとって退職金も含め、全財産を投じての一世一代の大事業であった。まず、活動の拠点 となる家を新築し、家の地下に多目的フロアを設けた。名前も杖道の創始者「夢想権之助」に あやかって「夢想館」と名付けた。

 

現在、そこで杖道の他、詩吟、筆ペン習字、笑いヨガ、脳活性化ゲーム、足揉みマッサージ、水彩画、カラオケ等の講座や、映画会、演奏会等を行っている。これらの活動は、勤務や弓道の稽古とともに行っている。杖道は、自宅近くの中学校の武道場で、笑いヨガは毎週土曜日の朝、公園でも行っている。

 

「老いも若きも学びのサロンでリフレッシュ」を合言葉に、夢想館は地域住民同士が学び合い、互いに心を通わす場になっている。杖道との出合いが私の人生の転機となったように、講座等に参加される人達にとって、人との出会いが人生のラッキーチャンスに繋がることを心から願っている毎日である。


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